
エル・ブリ 想像もつかない味 (光文社新書)
スペイン・バルセロナ近郊にあるレストラン「エル・ブリ」を紹介した本。
最初の1/3は、フランスの名料理人たちとの交流に筆が割かれている。エル・ブリの生まれる前提条件についての説明ということになる。それから、エル・ブリへの初訪問で衝撃を受けたこと、名品20皿の紹介、シェフのフェラン・アドリアへのインタビューという構成になっている。
エル・ブリが高く評価されているのは、料理に奇想が満ちているからだ。思いがけない仕掛けがあり、食べるひとは驚きを隠せない。いろいろ食べてきた評論家や料理人でも、調理法が分からないくらいだという。そしてもちろん美味しい。
そのあたりのビックリと喜びが巧みに描かれている。著者の感じたワクワクやドキドキが読者に力強く伝わってくる。美食について書くというのも、ある種の芸だと思うが、本書はその極地のひとつだろう。

エル・ブジ 至極のレシピ集―世界を席巻するスペイン料理界の至宝 (世界最高のレストラン―スペイン編)
世界のシェフが注目しているというスペイン料理レストラン「エル・ブジ」。スペインの・カタルニア地方の北のはずれモンジョイ入り江に面したこの店で供される品々は、スペイン伝統料理をベースに料理人フェラン・アドリアの創意と工夫によって作り出された新しい味とのこと。その料理のレシピを写真つきで紹介した一冊です。
料理のつややかさ、色合い、匂いまでも写し撮った大判の写真はなかなか見事です。料理を紹介する本の中には写真がこぶりなために、今ひとつ「見えない」というストレスのたまる思いをさせられるものがありますが、この本の写真は実物大に近いと思われる十分なサイズがあって安心して見ていられます。紹介されているレシピに従って料理を作るつもりのない読者も、料理写真集として眺めていて飽きることはないと思います。ただしあくまでスペインの伝統料理そのものに触れている本ではなく、いわゆるヌーベル・クイジーンを紹介しているということを覚悟する必要はあります。
著者の渡辺万里氏が巻頭に掲げたエル・ブジの来歴には、少々首をひねる部分がありました。オーナーであるジュリ・ソレールは駆け出し時代のフェランに対して「僕と組んで仕事をするなら、君をスペイン一のシェフにしてみせる」と語ったとあります。元音楽プロデューサーであるジュリが実際にどういう戦略をもってフェランをスペイン一のシェフにしたのかは、この文章にはしかとは書かれていませんが、書かれていないがために、このレストランが世に広く知られるようになったのはシェフの腕前そのものよりはジュリという「プロデューサーの売り出し」がうまかっただけではないかという穿った見方を抱かせます。
著者自身もジュリのメディア戦略にのせられてしまっているのではないかという印象を与える結果となり、損なつくりの本だなという気がしました。

エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密
エル・ブリの裏舞台がつぶさに見られる!しかし、重たい!でも、その分内容は充実している。なんといっても目次からおもしろい。目次の左ページは、付箋を貼ったみたいだ。ワインリスト、レストランの見取り図などの文字が見える。右のページには5分刻みで時刻が書いてあり、一日の予定表になっていて、エル・ブリの一日の流れが経営面から把握できる。本文はこの予定表にそって写真が並んでいる。たとえば書類に囲まれたフェランのオフィス。彼は1年の半分はレストランを閉めて、食材や調理法の研究開発に専念する。その結果を分類し、こうやって蓄積しているのだろう。実際の分類法や料理の準備表なども載っていて参考になる。
厨房の写真では、どんな食材や調理器具を、どのように使っているのかがよくわかる。注射器がある。水戸納豆やポン酢もある。ふつうのレシピ本では、こういうものを発見する楽しみがない。これもこの本のすごいところだ。そういえば、フェランは来日した際、懐石料理にいたく感動したとのこと。けっこう日本の食材や調理方法が好きらしい。ああ、食べてみたい! 皆さんもこの本でエル・ブリの味を想像してみてはいかが?